10日前、ブログで「AIに『聞く』のではなく『問いを投げる』」と書いた。違和感を言語化できないままAIに渡して、対話の中で思考を整理してもらう。これがAIの活きた活用法の第一歩だ、と。書きながら、自分でも「もう少し具体的に伝えたい」と思っていた。今日はそれを実例で見せる。最近、離れて暮らす親に向けたアプリのコンセプトを、AIと一緒に詰めた。雲のような塊だった構想が、言葉に変わっていく過程を、できるだけそのまま書いてみる。
構想はあるが、言語化できない
5月のある日、机に向かっていた。Day90が終わった後、新しいアプリの設計に取りかかろうとしていた。テーマは決まっていた。離れて暮らす親と、子の繋がりを支えるアプリ。隣の部屋で起きた孤独死の経験から、ずっと考えてきたテーマだった。
でも、構想はあるのに、形にできない。
頭の中には、何かがある。漠然とした塊が、雲のように浮かんでいる。「こういう感じのもの」「こういう人に届けたい」「こういう問題を解決したい」。ぼんやり見えているのに、文字にしようとすると、ぐにゃりと崩れる。
2つのハードルが、目の前にあった。
1つ目は、構想の言語化。何を作るのかを、自分の言葉で説明できない。
2つ目は、プログラム設計の順番。どこから手をつければいいのか、見えない。
こういう時、以前の私なら、紙にメモを書き出していた。書きながら整理する。それでもよかった。でも、紙は反応しない。書いたものに対して、質問を返してこない。
そこで、AIを開いた。
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まず、目的を1つに絞った
AIへの最初の投げかけは、こうだった。
「離れて暮らす親が、今日、ちゃんと活動しているかを、子が確認できるアプリを作りたい。でも、構想はあるんだけど、うまく言語化できない。一緒に整理してくれ」
これは、質問ではない。答えを求めていない。雲のような塊を、そのままAIに渡しただけだ。
AIの最初の反応は、こちらに「何のためにそれを作りたいのか」を聞き返してきた。私は答えた。
「隣の部屋で1か月気づかれずに亡くなった人がいた。あの記憶が、自分の中から消えない。同じことが、別の家族に起きないようにしたい」
ここで、自分でも気づいた。私が作ろうとしているものの根は、ここにあるんだと。便利な機能を作りたいんじゃない。「気づかれずに消えていく人を、減らしたい」という願いが、最初の動機だった。
AIとの対話で、まず目的が1つに絞られた。「親が活動しているかを、子が確認できる」。これがゴールだ。
頭の引き出しが、勝手に開く
目的が定まると、不思議なことに、頭の引き出しが勝手に開き始める。
記憶の中から、ある家電のニュースが浮かんできた。電気ケトルにセンサーを付けた製品。離れて暮らす親が朝にお茶を沸かすと、その情報が子のスマホに通知される。昼過ぎまで沸かす連絡が来なければ、子が様子を見に行く。それだけのシンプルな仕組みだ。
「これだ」と思った。毎日必ずやる動作を、信号にする。お茶を沸かすことに限らず、もっと一般化できるはずだ。
もう1つ、母とのやり取りが頭をよぎった。先日、帰省したとき、母がこぼしていた。「スマホの機種変更ができない」と。話を聞くと、田舎では携帯ショップの選択肢が少ない上に、販売員が派遣の人で心がこもっていない。高い機種ばかり勧めてくる。騙される気がして、結局買わずに帰ってきたという。
母の話を思い出したとき、私自身の機種変更を思い出した。3か月前、私も新しいスマホに変えた。事前にAIと綿密に打ち合わせをした。プラン相談の切り出し方、希望機種の選定、店員さんとの会話の進め方まで、全部AIと一緒に準備した。ファーストコンタクトの時点で「あ、この人は詳しい」と思わせ、主導権を握りながら交渉した。結果、1円機種を手にした。
母も、同じことができたら、騙されずに済んだはずだ。AIと対話できれば。
そしてもう1つ。パートナーは、もともとスマホ嫌いだった。3G終了で泣く泣くスマホに変えた。でも、変えてしまえば、どっぷりハマった。スマホ自体が嫌いだったわけじゃない。「使い始めるまで」が難しかっただけだ。
3つの記憶が、AIとの対話の中で、繋がっていった。
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「親がAIと対話、子に通知」というコンセプト
3つの記憶を並べて、AIと一緒に整理した。
毎日やる動作を信号にできる。
親はAIと対話できれば、いろいろな困りごとを減らせる。
慣れるまでが難しいが、慣れたら手放せなくなる。
ここから、自然にコンセプトが見えてきた。
「親がAIと対話する。その対話の事実だけが、子に通知される」
これだ、と思った。親はAIに話しかける。困りごとを相談できる。生活の質が上がる。同時に、対話したという事実だけが、子に届く。「今日もAIと話していました」と。中身は伝えない。プライバシーは守る。
子は、毎日電話する必要がなくなる。「いつもと違う」を、対話の有無で察知できる。
これが、最初のコンセプトの骨格だった。
ひらめいた瞬間:「見守り」と「監視」は違う
ここで、AIとの対話の中で、一番大きなひらめきがあった。
最初、私は「見守り」と「監視」を、なんとなく同じ言葉として使っていた。でもAIと話していたら、この2つが決定的に違うことに気づいた。
「監視」は、見られている側が窮屈になる。常に見られている。何をしているか、いつ動いたか、全部記録される。プライバシーが消える。法的にも、本人の同意がないと多くの問題が出てくる。
「見守り」は、見られている側が窮屈にならない。中身までは見ない。でも「いつもと違う」時には、誰かが気づける。
同じ「親の様子を知る」でも、設計次第で、まったく違うものになる。
この気づきは、コンセプトを大きく動かした。リアルタイムで親の動きを伝えるのは「監視」だ。週に1回、活動の有無だけを伝えるなら「見守り」になる。後者なら、本人の尊厳もプライバシーも守られる。
具体的な設計が、ここで動いた。リアルタイム通知をやめて、週1回の活動報告メールにする。中身は伝えない。「先週、AIと7回対話していました」みたいな、シンプルな事実だけ。
「見守り」と「監視」を分ける1本の線。これが、AIとの対話で初めて見えた線だった。
「孫」というアイデアにたどり着く
コンセプトの骨格は見えた。でも、最大のハードルが残っていた。
「親に、AIを使ってもらうにはどうするか」
パートナーがスマホにハマったのは、慣れた後だった。問題は、慣れるまで。高齢の親に「AIと話してみて」と言っても、たぶん使ってもらえない。「AI」という言葉自体が、抵抗感を生む。
AIに、こう投げかけた。
「親に毎日AIと話してもらうには、どうすればいい? AIに見えない方がいいかもしれない」
AIと一緒に考えていく中で、ふと頭に浮かんだのが、AIBOやLOVOTのような、AIペットだった。あれは、人形だった。AIが入っているけど、見た目は犬や生き物。だから受け入れられている。
そして、もう一段進んだ。高齢の人が、毎日話したくなる相手は、犬やロボットだけじゃない。孫だ。
「親が孫と話しているように感じられるAIボット」。これなら、毎日話したくなるかもしれない。「孫」というキャラクターが、AIへのハードルを溶かしてくれる。
このアイデアを得てから、設計の方向が一気に定まった。どんな声で話すか。どんな話題を出すか。孫らしさをどう作るか。AIと壁打ちを続けながら、形になっていった。
私のAI活用プロセス、5ステップ
ここまでの流れを、自分なりに整理する。
第1ステップ。目的を1つに絞る。AIに最初に投げかけるのは、質問ではなく、目的そのもの。「何のために、何を作りたいか」を、雑でいいから言葉にする。
第2ステップ。脳内の「雲」を、そのまま渡す。整理してから渡そうとしない。整理できないからAIに渡すのだ。「うまく言えないんだけど」と前置きしながら、雲のままぶつける。
第3ステップ。AIの問い返しに答えていく。AIは、こちらが言わなかった部分を聞き返してくる。「なぜそれを作りたいのか」「誰が使うのか」「どんな問題を解決したいのか」。答えていく中で、自分でも気づいていなかった動機が出てくる。
第4ステップ。AIが拾ってきた言葉を、自分の中で重ねる。AIは万能じゃない。間違うこともある。でも、AIが拾ってきた言葉の中に、自分の頭の引き出しを開けてくれる鍵がある。「見守り」と「監視」の違いに気づいたのは、AIが「これは違うものでは?」と問い返してきたからだった。
第5ステップ。具体化する。コンセプトが見えたら、設計書、実装の順番へと落とし込む。ここはもう、技術の作業だ。
この5ステップを丁寧にやらないと、後で必ず破綻する。「とりあえずコードを書き始める」が、一番危険だ。途中で予期せぬ挙動が出る。何歩も後退する。最初の整理に時間をかけたほうが、結局は早く着く。
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応用編:3者のAIに同じ問いを投げる
もう1つ、最近よくやる手法を共有しておく。
同じ問いを、ChatGPT、Claude、Geminiの3者に同時に投げる。3者は、性格が違う。同じ問いでも、別の角度から答えを返してくる。
そして、3者の答えを、別のAIに見せて、「この3つを比較して、君の意見を聞かせてくれ」と投げる。AI同士で揉んでもらう。
これも、なかなか面白い結果が出る。1人のAIに頼ると、その性格に引っ張られる。3者を競わせると、別の景色が見えてくる。
1人で考えるよりも、3人と1人の組織で考えるほうが、深い。これは、独立してから得た、新しい働き方だ。
AIは、答えを出さない。整理を手伝う
最後に、これだけは書いておきたい。
AIは、答えを出してくれない。少なくとも、私が活かしているAIは、そうじゃない。
AIがやってくれるのは、整理だ。雲のように浮かんでいる構想を、対話の中で形にしていく作業を、手伝ってくれる。出てくる答えは、私の頭の中から出てきたものだ。AIは、それを引き出すための問いを返してくれる。
これが「使う」と「活かす」の違いだと、私は思っている。
「使う」は、AIに答えを求める。AIに丸投げする。
「活かす」は、AIと一緒に考える。AIに整理を手伝ってもらう。
2つは、似ているようで、まったく別の働き方だ。
離れて暮らす親に向けたアプリのコンセプトは、まだ完成していない。法的な確認も、技術的な検証も、これからやることが山ほどある。でも、コンセプトの骨格は、AIとの対話で確かに見えた。1人で抱え込んでいたら、たぶん、ここまで形にならなかった。
AIは、答えを出さない。でも、自分の頭の中から、自分でも気づいていなかった答えを、引き出してくれる。
それが、私のAI活用の現在地だ。
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