リリースの数日前、深夜のことだ。
決済の設定画面を前に、手が止まっていた。マウスを持ったまま、たぶん5分は動いていなかったと思う。
「最初の30日は無料」にするのは、決めていた。問題は、その先だった。
カード番号を、いつ聞くか。
申し込みのときに先に聞くか。無料期間が終わって、続けたい人にだけ後から聞くか。たった、それだけのこと。でも、この順番ひとつで、このサービスの性格が決まる気がしていた。
私は「先に聞く」を選んだ。
今日は、その理由を書く。少し意外な話になると思う。
「後から聞く」方が、容易に見える
カードは後からの方が、スムーズに参加できそうだよな。
最初、頭の中では、そんな声がしていた。
カード番号の入力は、申し込みの一番大きなハードルだ。「無料で試せます。カードもいりません」と言えば、入口は軽くなる。試す人は、確実に増える。
逆に、先に聞けば、入口で何割かの人が帰ってしまう。「無料期間なのに、カードを聞くのか」と。
それは、分かっていた。
だが私は、先に聞くことにした。申し込みが減るのを承知の上で。
理由は、まごのTECが、ちょっと変わった構造のサービスだからだ。
お金を払う人と、使う人が、違う
まごのTECは、登録するのは子、使うのは親。
つまり、お金を払う人と、サービスを使う人が、別の人間だ。
これが、どういうことか。
たとえば、自分が使うアプリなら、話は簡単だ。無料で試して、気に入ったら払う。使うのも決めるのも、自分ひとりで完結する。
でも、まごのTECは違う。
子が申し込んでも、実際に「まごちゃん」と話すのは、離れた町に住む親だ。親がスマホを開いて、話しかけてくれなければ、このサービスは始まらない。
そして、ここに落とし穴がある。
親は最初、使えない人がいるかもしれない。
「できないのね? じゃ、要らないね」問題
70代の親に、新しいものを渡したことがある人なら、分かると思う。
渡した直後は、なかなか使わない。「あとでね」と言って、そのままになる。悪気はない。新しいものは、慣れるまで面倒なのだ。
ここで、カードを「後から聞く」設計にしていたら、何が起きるか。
子は、無料で試しているだけだ。何も失っていない。だから、親が使っていなくても、特に困らない。1週間が過ぎ、2週間が過ぎる。レポートには「お話しした日:0日」が並ぶ。
そして、子はこう思う。
「できないのね? じゃ、要らないね」
終わりだ。親は一度も「まごちゃん」と話さないまま、静かに無料期間が終わる。誰も悪くない。でも、何も始まらなかった。
設計を考えながら、私はこの光景が、ありありと見えてしまった。
カードを先に切った人は、親に電話をかける
では、カードを「先に聞く」と、何が変わるのか。
カード番号を入力した子は、もう「試しているだけの人」ではない。30日後には980円が動く。小さな金額でも、自分の決断に、自分のカードで判を押した人だ。
使ってもらいたい意思が生まれる。
レポートに「お話しした日:0日」が並んだとき、「じゃ、要らないね」ではなく、こうなる。
「お母さん、あれ使ってみた? 開くだけでいいから、一回話しかけてみてよ」
電話を、かけるのだ。
お金を出した人は、出したものを活かそうとする。人間の、自然な心理だ。その一本の電話が、親の重い腰を上げる。親が一度「まごちゃん」と話せば、二度目からは軽くなる。
気づいてほしい。この瞬間、何が起きているか。
離れて暮らす親子の間に、電話が一本、かかっている。
「まごのTECを使ってみてよ」という、用事のある電話。けれどその通話の最後は、たぶん「最近どう?」になる。
カード登録は、課金のための仕組みじゃなかった。親子の会話を一本、生むための仕掛けだった。
そこに気づいたとき、深夜の画面の前で、迷いが消えた。先に聞こう、と決めた。
入口の容易さと、その先のやさしさ
カードを後から聞く設計は、導入が容易だ。
でも、その「容易さ」は、誰も何も始めないまま終わる自由のことだった。親は一度も話さず、子は何も働きかけず、静かに消えていく。それを、やさしさと呼んでいいのか。
カードを先に聞く設計は、入口が少し重い。帰ってしまう人もいるだろう。
でも、入口を越えた人は、親に電話をかける。サービスが始まる。会話が生まれる。
私は、後者を選んだ。申し込みの数より、始まる数を取った。
もちろん、合わなければ30日以内に解約すればいい。一円もかからない。そこは変わらない。ただ、「いつでも逃げられる入口」ではなく、「小さく決断して入る入口」にした。それだけの話だ。
正直に言うと、不安はある
この設計が正解かどうかは、まだ分からない。
リリースして3日。申し込みは、まだ0件だ。
カードを先に聞く設計のせいかもしれないし、単に知られていないだけかもしれない。フォロワー100人とブログだけの露出で、3日で申し込みが入る方が珍しい。頭では、そう分かっている。
それでも、数字の0を見るたびに、深夜の自分の判断を思い返す。あれで良かったのか、と。
でも、考え直しても、答えは同じところに戻ってくる。
まごのTECが売りたいのは、アプリの利用権じゃない。「親と、もう一度つながるきっかけ」だ。だったら、きっかけが生まれる設計を選ぶしかない。
申し込みの0が1になる日を、この設計のまま、待つ。
設計の話を、なぜ公開するのか
手の内を明かすような話を、なぜ書くのか。
理由は単純で、まごのTECは「見守り」と「監視」を分けるところから始まったサービスだからだ。中身の見えない仕組みで親を扱うことを、一番嫌って作った。だったら、作り手の考えも、見えるところに置いておきたい。
カードを先に聞くのには、理由がある。その理由ごと、判断してもらえればいい。
納得できた人だけが、入口を越えてくれれば、それでいい。
質問があれば、いつでも jibunkaikakulab@gmail.com へ。私が直接お返事します。
逃げない🔥
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連載NOTE、更新中
昨日6/3、NOTE連載の第2話を無料公開しました。

まごのTECの構想も、この「問いの投げ方」から生まれています。あわせてどうぞ。

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