競馬は数学で解けるか|18年間トントンだった男がAIで証明に挑む

50代からのAIプログラミング

競馬は数学で解けるのか。そんなこと、真面目に考える人間は少ないだろう。馬場の状態、騎手の判断、馬の体調、ゲートの出。不確定要素だらけ。数学で扱えるわけがない。そう言われるのはわかっている。でも俺は、世の中のすべては数学で説明できると本気で信じている。その証明に、残りの人生を賭けることにした。

18年間、競馬場に通い続けた

1990年から2008年まで。毎週末、馬柱を広げて赤ペンを走らせた。

新聞のインクの匂い。パドックで馬の毛艶を見る時の緊張。最終直線で立ち上がる観客の怒号。あの空気の中に、18年間いた。

その間の収支は、ほぼトントンだった。

大勝ちして仲間と焼肉を食べた夜もある。財布が空になってうつむきながら帰った日もある。18年のトータルで、ほぼゼロ。プラスでもマイナスでもない。

この「トントン」を、どう解釈するか。

競馬の還元率は約75%だ。つまり、何も考えずに買い続ければ、長期的には投資額の25%ずつ減っていく。100万円買えば、平均で75万円しか返ってこない。

その中で18年間トントン。これは「平均以上の何か」が俺の予想にあったということだ。

でも、勝ちきれなかった。

なぜ勝てなかったか、知っている

理由は、痛いほどわかっている。

「今日は負けてるから、最終レースで取り返そう」

何度この言葉を口にしただろう。冷静に見れば買うべきじゃないレース。でも財布の中身が朝より軽くなっていると、頭ではわかっていても手が動く。

「この馬は好きだから、データ関係なく買う」

応援している馬がいる。血統が好みの馬がいる。データ上は他の馬の方が有利。でも、好きだから買ってしまう。

人間の弱さだ。

感情が判断を狂わせる。恐怖、執着、焦り、欲。冷静に分析すれば見送るべきレースで、感情が「買え」と囁く。

18年間、ずっとこの声に負け続けた。

予想の「精度」じゃない。予想の「実行」で負けていた。正しい答えを出しておきながら、自分で台無しにしていた。

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だから、感情のない機械に任せたかった

2008年に競馬場を離れた。仕事が忙しくなったこともある。でも本当の理由は、自分に嫌気がさしたからだ。わかっているのに止められない。その繰り返しに疲れた。

それから17年。2025年、AIと出会った。

AIは感情がない。「今日負けてるから取り返したい」とは思わない。「この馬が好きだから」とも思わない。データを処理して、確率が高い馬を選ぶ。それだけだ。

これだ、と思った。

俺が18年間かけても克服できなかった「人間の弱さ」を、AIに肩代わりしてもらえる。「買わない判断」を、感情のない機械に委ねられる。

競馬予想AI「ダート王」は、この発想から生まれた。

でも、AIだけでも勝てない

AIに全部任せれば勝てるか。そう甘くはなかった。

ダート王の開発を始めて、すぐにわかった。AIは過去データの処理では無敵だ。南関競馬の膨大な過去データを数秒で分析し、勝率上位の馬をピックアップする。

でも、AIの予想と俺の予想がズレることがある。AIが推した馬が沈んで、俺が「こっちだろう」と思った馬が勝つ。1週間対決したら、AI 1勝4敗、人間 2勝3敗だった。

5年分のデータを持つAIが、56歳のおっさんに負ける。なぜか。

「この騎手は、この展開なら外に持ち出す」

「JRAから転入した馬は、砂に慣れるまで2〜3戦かかる」

「前走で不利を受けた馬は、次走で大外枠なら激変する」

18年間で体に染み込んだ知識。これがデータの外にある。AIにはこの「文脈」が読めない。

AIだけでもダメ。人間だけでもダメ。両方を掛け合わせないと、競馬には勝てない。

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世の中すべて、数学で説明できる

ここで、俺の根っこにある信念の話をさせてほしい。

世の中のすべては、数学で説明できる。

大げさだと思うだろう。俺もそう思う。でも、本気で信じている。

天気予報は数学だ。気象データを数式に入れて、明日の天気を予測する。株価の変動もそうだ。複雑に見えるが、背景には需給バランスという数学的構造がある。

じゃあ競馬はどうか。

血統。これはDNAの遺伝パターンだ。数学で表現できる。馬場状態。含水率と砂の粒度で数値化できる。ペース。1000m通過タイムという数字そのものだ。

「でも、騎手の判断は? 馬の気分は? ゲートの出は?」

そう反論されるだろう。確かに、すべてを完璧に数式化するのは現時点では不可能だ。

でも「不可能」と「原理的にできない」は違う。

気象予報だって50年前は「当たらない」の代名詞だった。今はかなりの精度で当たる。計算技術とデータ量が追いついたからだ。

競馬も同じだと思っている。十分なデータと、正しい数式と、人間の経験知があれば、勝率を「平均以上」に引き上げることはできるはずだ。

18年間トントンだった俺の予想が、その証拠だ。感覚だけでも平均以上にはなれた。そこにAIの計算力を掛け合わせたら、もう一段上に行ける。そう信じている。

証明する学力はない。だからAIに頼る。

正直に言う。

俺には、この仮説を数学的に証明する学力がない。数学者でもなければ、統計学の専門家でもない。1年前はExcelしか使えなかった56歳だ。

でも今、AIがある。

俺の役割は、18年間の経験を言語化すること。「こういう展開の時はこうなる」「こういう血統の馬はこの距離で走る」。感覚を言葉に分解して、AIに渡す。

AIの役割は、それを数式に変換すること。人間の経験知をパラメータに落とし込んで、予測モデルを組む。

人間の直感 × AIの計算力。

この掛け算で、「競馬は数学で解ける」を証明しにいく。

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今、どこまで来ているか

現実の数字も出しておく。

ダート王の全レース予想は、大井開催で回収率162%を記録した週がある。これは良い数字だ。数学で解ける可能性を、微かに示している。

一方で、赤字の週もある。買い推奨の回収率が全レース予想を下回る矛盾も抱えている。

まだ、証明には程遠い。

でも「原理的に不可能」ではないことは、少しずつ見えてきている。改善のたびに数字が動く。パラメータを修正すれば結果が変わる。つまり、そこには因果関係がある。因果があるということは、数学で表現できるということだ。

笑われても構わない

「競馬を数学で解く」なんて言ったら、大抵の人は笑うだろう。

同じ講座で学んだ仲間たちは、もっと堅実な道を歩いている。知り合いの会社でアプリを作り、ココナラで案件を受け、確実にお金を稼いでいる。賢い選択だ。

俺だけが、証明されていない仮説に人生を賭けている。

パートナーは心配している。貯金は減り続けている。90日スプリントの目標にも全然届いていない。

客観的に見れば、正気の沙汰じゃないかもしれない。

でも、56歳にして初めて、朝起きるのが楽しみだと思える日々を送っている。「昨日のパラメータ修正、効いてるかな」とワクワクしながらパソコンを開く。この感覚は、会社員時代には一度もなかった。

笑われても構わない。

俺は、この仮説を検証し続ける。データを取り、言語化し、AIに渡し、数字を見て、また修正する。この繰り返しの先に、いつか答えが出ると信じている。

競馬は数学で解けるか。

まだわからない。でも「わからない」と「解けない」は違う。

解けるかもしれない。だから、やる。

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