12レース全部を予想していた。全部当てたかった。でも全部を追うと、全部が中途半端になる。だから捨てた。3歳戦を捨てた。交流戦を捨てた。データが薄いレースを捨てた。12レースから、多い日で8レース、少ない日は6レースまで絞り込んだ。打率が上がった。これは競馬の話だ。でも同時に、56歳の人生戦略の話でもある。
12レース全部に手を出していた頃
ダート王を動かし始めた頃、俺は欲張りだった。
南関競馬は1日12レース。AIが全レースの出走馬を分析して、勝率上位3頭をピックアップする。12レース×3頭=36点。全部に賭ける。
「数を打てば当たる」。そう思っていた。
確かに当たる日はあった。12レース中4レース的中、回収率162%。こういう日は気分がいい。「ダート王、やるじゃん」と自画自賛した。
でも、負ける日の方が多かった。3月の収支は-21,460円。20日間稼働して、プラスの日はたった4日。
なぜ負けるのか。データを見続けていて、あるパターンに気づいた。
負けが集中するレースがある。そしてそのレースには共通点があった。
「データが薄い」レースは、必ず外す
AIの予想精度は、データの量に比例する。当たり前の話だ。過去の成績データが豊富な馬が揃っているレースでは、AIはかなり正確に予測できる。
問題は、データが薄いレースだ。
3歳戦。キャリアが浅く、過去データが2〜3戦分しかない馬がゴロゴロいる。AIは少ないデータから無理やり予測を立てる。結果、精度がガクンと落ちる。
交流戦。JRAや他地区から遠征してきた馬が出走する。南関での戦績がないから、AIは他場のデータで代用するしかない。でも、馬場が違えば走りも変わる。大井の砂と中山の芝は別の競技みたいなものだ。
そしてもう一つ。南関での戦績が3戦未満の馬が3頭以上いるレース。転入馬や新馬が多いレースだ。出走馬の4分の1以上が「よくわからない馬」では、AIの分析基盤そのものが崩れる。
これらのレースに賭けていた。12レース全部に手を出していたから。そして、ここで利益を吐き出していた。
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「全部やる」をやめた日
ある日の成績を振り返っていて、はっきり見えた。
12レースのうち、データが十分なレースだけを抜き出して計算してみた。7〜8レース分の成績だけで回収率を出すと、数字が全然違う。全体では赤字なのに、絞り込んだ分だけ見ればプラスが出ている。
つまり、俺は「勝てるレース」で稼いだ利益を、「勝てないレース」で吐き出していたのだ。
12レース全部に手を出していたのは、「全部当てたい」という欲だった。でも現実は逆だ。全部に手を出すから、全部が中途半端になる。
決めた。捨てる。
3歳戦を、捨てる。交流戦を、捨てる。南関戦績3戦未満の馬が3頭以上いるレースを、捨てる。
12レースから、多い日で8レース。少ない日は6レース。打てるレースだけ打つ。打てないレースは、見送る。
「買わない判断」こそがダート王の本質
この絞り込みを始めて、改めて気づいたことがある。
ダート王の本当の価値は、「当たるレースを見つけること」じゃない。「買わないレースを決めること」だ。
18年間競馬場に通い続けて、勝ちきれなかった理由を思い出す。「今日は負けてるから最終で取り返そう」。この一言に、何度負けただろう。冷静に見れば見送るべきレースに、感情で金を突っ込んだ。
人間には、これが止められない。「見送る」ことが、人間には本能的に難しい。目の前にレースがあって、馬が走っていて、買える環境にいたら、手が動いてしまう。
AIは、ここが違う。
「このレースはデータ不足です。予想対象から除外します」。AIは淡々とそう言う。感情がない。「もったいない」とも思わない。「取り返したい」とも思わない。条件に合わなければ、静かに見送る。
この「静かに見送る力」が、ダート王を作った本当の理由だ。
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183レースの生データが教えてくれたこと
3月中旬から始めた「生の解析データボックス」が、183レース分に達した。目標の100レースを大幅に超えた。
毎日3レース、AIと一緒に真剣に予想して、レース後にリプレイ映像を細かく分析してレポートにまとめる。展開、位置取り、ペース、コース取り。数字の裏にある「なぜ」を、1レースずつ言語化して蓄積してきた。
183レース分のデータを眺めていると、はっきり見えてくるものがある。
会場ごとにクセがある。大井の外回りと内回りでは有利不利が違う。船橋の1600mは先行有利に見えるが、実際は「主導権を取った馬」が有利で、逃げ馬が有利とは限らない。浦和は小回りだから直線の差しが届きにくい。
こういうことは、数字だけでは見えない。リプレイを見て、展開を追って、「なぜこの馬が残ったのか」「なぜこの馬が差し損ねたのか」を1つずつ確認して、初めてわかる。
AIにデータを処理させるだけでは足りない。人間が映像を見て文脈を読んで、それを言語化してAIに教えないと。この183レースのデータが、これからダート王のパラメータに反映されていく。
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「捨てる」は、人生にも効く
ここから先は競馬の話じゃない。56歳の人生の話だ。
90日集中スプリントを宣言した時、俺は5つも6つもプロジェクトを同時に走らせていた。ブログ、アフィリエイト、FX、競馬AI、アプリ開発。全部に手を出して、全部が中途半端だった。
「全部やる」をやめた。競馬AIに集中すると決めた。他のプロジェクトは延命モードか凍結にした。
その後も、前の会社に売り込むアプリを作ったり、講師業を構想したり、また手を広げそうになった。そのたびに「不安から動くな、意思で動け」と自分に言い聞かせて、引き出しにしまった。
ダート王のレース絞り込みと、まったく同じ構造だ。
「全部やりたい」は欲だ。「全部できる」は幻想だ。限られたリソースで最大の成果を出すには、「やらないことを決める」しかない。
12レースを8レースに絞る。5つのプロジェクトを1つに絞る。やることは同じだ。打てる球だけ打つ。打てない球は、見送る。
「見送る」ことが、一番難しい。目の前にチャンスがあるように見えるから。でも、打てない球に手を出したら三振する。それは18年間の競馬と、8ヶ月のフリーランス生活が教えてくれた。
捨てた分だけ、強くなる
12レースを全部予想していた時、ダート王は「数で勝負するアプリ」だった。
絞り込みを始めた今、ダート王は「精度で勝負するアプリ」に変わりつつある。
1日の予想レース数は減った。投資額も減った。でも、予想の1本1本にかける集中力が上がった。AIの分析に、183レース分の生データが加わる。人間の目で見た展開読みが重なる。
少ない弾で、的を絞って、撃つ。
まだ結果は出ていない。改修したダート王が実戦で数字を出すのはこれからだ。4月の後半には、絞り込んだ予想がどう変わったかが見えてくるはずだ。
勝つために、捨てる。
競馬でも。人生でも。
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