「なんかいい感じにして」と言えばAIはゴミを出す。「この条件で、このロジックで処理して」と言えば神が降りる。違いは何か。言語化だ。AI時代に仕事を奪われる人と生き残る人を分けるのは、プログラミングスキルでも学歴でもない。自分の考えを正確に言葉にできるかどうか。たったそれだけのことに、俺は1年かかって気づいた。
AIは俺の言葉を映す鏡だった
56歳。1年前はExcelしか使えなかった。
今、AIを使ってアプリを7本作っている。競馬予想AI「ダート王」もその一つだ。プログラミングの知識はほぼゼロ。コードはAIに書いてもらっている。いわゆるバイブコーディングだ。
最初の頃は、AIが何でもやってくれると思っていた。「ホームページ作って」。出てきたのは、目も当てられない代物だった。
AIが馬鹿なのかと思った。でも違った。
馬鹿だったのは俺だ。「ホームページ作って」の一言で、自分が何を求めているのか、まるで伝わっていなかった。AIは忠実に指示を実行しただけだ。指示がゴミなら、出力もゴミになる。当たり前の話だった。
AIは鏡だ。投げかけた言葉の精度が、そのまま結果の精度になって返ってくる。
「いい感じにして」を封印した日
転機があった。
アイキャッチ画像を作ろうとして、AIに「いい感じのデザインにして」と頼んだ。出てきたのは、どこかで見たようなテンプレートの塊。「もうちょっと良くして」と追加で頼んだ。色が変わっただけ。
苛立った。でも、ふと気づいた。
「もうちょっと良く」って、何だ?
色を変えたいのか。レイアウトを変えたいのか。雰囲気を変えたいのか。俺自身が、何が欲しいのかを分かっていなかった。分かっていないことを、AIに伝えられるはずがない。
その日から「いい感じ」を封印した。
「背景は暗めのグレー、テキストは白で太字、左に人物、右にデータグラフ、全体のトーンは映画のポスターのようにドラマチックに」
こう伝えたら、一発で欲しいものが出てきた。指が震えた。AIが変わったんじゃない。俺の言葉が変わっただけだ。
この瞬間、確信した。AIの性能を引き出すのは、人間の言葉の精度だ。
18年の競馬経験が、言葉にできない
ダート王の開発で、言語化の壁に正面からぶつかった。
AIは南関競馬の膨大な過去データを持っている。出走馬の成績を数秒で分析し、勝率上位の馬をピックアップする。データ処理では人間は逆立ちしても勝てない。
でも、AIの予想と俺の予想がズレる。
先週1週間、最終レースで対決した結果。AI 1勝4敗、人間 2勝3敗。5年分のデータを持つAIが、56歳のおっさんに負けた。
なぜ俺の方が当たるのか。1990年から2008年まで、18年間競馬場に通い続けた経験があるからだ。
「この騎手は、この展開になったら外に持ち出す」
「JRAから転入した馬は、地方の砂に慣れるまで2〜3戦かかる」
「前走で揉まれて惨敗した馬でも、次走で大外枠なら激変する」
こういうことを、俺は「感覚で」知っている。
問題は、この感覚をAIに伝えられないことだった。
「前走で揉まれた馬は次走で注意」
こう教えても、AIには曖昧すぎて処理できない。「揉まれた」とは何頭に囲まれた状態か。何メートル地点で発生したか。速度はどれだけ落ちたか。「注意」とは勝率を何%加算するのか。
18年の経験が、確かに体の中にある。でも、それを言葉にできない。言葉にできなければ、AIに教えられない。教えられなければ、AIは永遠にここに気づけない。
感覚を言葉に分解する。言葉を条件に変換する。条件を数値に落とし込む。この作業は、地味で、苦しくて、終わりが見えない。
でも、開発が劇的に進む瞬間は、いつもこの作業の先にあった。
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AIに仕事を奪われる人、奪われない人
最近「アンソロピックショック」という言葉を耳にする。AIが進化して、事務職もエンジニアも仕事がなくなるという話だ。
正直、俺もビビった。56歳で脱サラして、AIを使って食っていこうとしている真っ最中だ。そのAIに仕事を奪われたら、笑い話にもならない。
でも、1年間の開発で見えてきたことがある。
AIは「実行」の天才だ。指示されたことを、人間の何百倍の速度でこなす。でも「何を指示すべきか」を決めることはできない。
ダート王の開発で何度も経験した。AIに意見を戦わせても、突破口は生まれない。「なんでこのレース当たらないんだろう?」という俺の素朴な疑問が出発点になって、ロジックのアラが見えて、修正点が見つかる。
いつも、人間のクリティカルな一言が突破口だった。
つまり、仕事を奪われるのは「AIに指示を出せない人」だ。逆に言えば、自分の経験や知識を正確に言語化してAIに伝えられる人は、AIが進化すればするほど強くなる。
AIが優秀になるほど、言語化できる人間の価値が上がる。これは矛盾しているようで、俺が1年間体感してきた事実だ。
50代が最強である理由
ここで一つ、50代に朗報がある。
言語化において、50代は最強のポジションにいる。
30年以上の社会人経験。業界の知識。人間関係の機微。「こういう時はこうなる」という経験則の山。これは20代には絶対にない。
20代はAIを使いこなすスピードが速いかもしれない。でも、「何を指示すべきか」の引き出しが少ない。経験が薄いから、AIに教えるべきことが少ない。
50代は違う。人生で蓄積した経験という、膨大な「教材」を持っている。その教材を言語化してAIに渡せれば、20代には出せない質のアウトプットが出る。
俺の競馬予想AIが証明している。18年分の競馬経験を少しずつ言語化してAIに注入している。この経験がなければ、AIは過去データを処理するだけのポンコツだ。人間の経験を食わせて初めて、AIは実戦で使える武器に化ける。
50代の経験は、負債じゃない。AI時代の最強の資産だ。
世の中すべて、数学で証明できると信じている
突拍子もないことを言う。
俺は、世の中のすべてが数学で説明できると思っている。
競馬もそうだ。血統、馬場状態、展開、騎手の判断。不確定要素だらけに見える。でも、すべての現象には因果関係があり、突き詰めれば数式で表現できるはずだ。
ただ、それを証明する学力が俺にはない。
だからAIに頼っている。俺の経験を言語化して渡す。AIがそれを数式に変換する。人間の直感とAIの計算力を掛け合わせる。それが「ダート王」の開発思想だ。
同じ講座で学んだ仲間たちは、もっと堅実な道を歩んでいる。知り合いの会社でアプリを作ったり、業務改善に活かしたり、ココナラで案件を受けたり。現実的で、賢い選択だ。
俺だけ、ロマンを追いかけている。
「競馬は数学で解ける」。そんな証明されていないことに、残りの人生を賭けている。生活のことは気になる。フリーになったから稼がないとダメだ。資金には限りがある。
でも、夢中になれるものに出会えたことの方が、俺にとっては大きい。
そして、このロマンの根底にあるのも言語化だ。「競馬は数学で解ける」という信念を、一つずつパラメータに落とし込んでいく。感覚を言葉に変え、言葉を数字に変え、数字をロジックに変える。すべての起点は、言語化だ。
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今日から、一つだけやってみてほしい
難しいことは言わない。
今日AIを使う時、「いい感じにして」を封印してみてほしい。
代わりに、自分が欲しいものを具体的に書き出す。色は何色か。文字数はどのくらいか。誰に向けたものか。どんなトーンか。
最初はうまくいかない。むしろ、うまく言えない自分にイライラすると思う。でも「うまく言えない」と気づくこと自体が、言語化の第一歩だ。
AIは怒らない。何度でもやり直せる。人間の上司と違って、「さっきも同じこと言ったよね?」とは言わない。最高の練習相手だ。
56歳の俺が、Excelしか使えない状態からアプリを7本作れた。特別な才能があったからじゃない。毎日AIに向き合って、うまく伝わらなくて、悔しくて、言い方を変えて、少しずつ言葉の精度を上げてきた。それだけだ。
言語化は才能じゃない。筋トレだ。最初は10kgも持てなくていい。毎日やれば持てるようになる。
50代の経験は、AI時代の最強の武器になる。
あとは、それを言葉にするだけだ。
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