ダート王、「買わない判断」を機械化した日|期待値投資型への変革

50代からのAIプログラミング

「最終で取り返そう」。あの一言を、何百回つぶやいただろう。18年間、競馬場に通い続けた。中央も、南関も。府中、中山、大井、川崎、浦和、船橋。毎日のようにパートナーと電車に乗って、どこかの競馬場にいた。収支は、トントンだった。正確には、少し負けていた。そして今、データを冷静に見直すと、本当は勝てた日があったとわかる。勝った日に、いらないレースまで買って吐き出していた。負けた日に、最終で取り返そうとして傷を広げていた。18年経っても、買わない判断ができなかった。人間だから。今日、その「買わない判断」を、ダート王に機械として実装した。1,604レースのバックテストで、ROI124.8%が出た。やっと、あの頃の自分が欲しかった道具ができた。

競馬場の最終レース、ファンファーレが鳴る前

競馬を知らない人には伝わりにくいかもしれないが、競馬場で1日を過ごすと、独特の時間の流れができる。朝、勇んで競馬場に着く。第1レースから真剣に予想して、買って、見て、当たって、外して、ため息をついたり、ガッツポーズをしたりする。気がつくと夕方になっている。

最終レースのファンファーレが鳴る前、いつも同じことを考えていた。

勝っている日は、「今日は調子がいいから、最後も当てて締めよう」。負けている日は、「今日マイナスだから、最終で取り返そう」。

どちらの日も、結論は「買う」になる。

本当は、勝った日も負けた日も、最終レースは見送るべきレースが多かった。よくわからない混戦、データが薄い若駒、自分の得意な条件と違うコース。冷静に判断すれば、買う必要のないレースだ。でも、競馬場にいる時間と、自分の中で動いている感情が、必ず手を動かさせた。

そして、当たり前のように負けた。いや、たまには取り返せた日もあった。でもデータを見ると、長期的には負けが勝っていた。最終で吐き出した利益と、最終でさらに広げた傷の合計が、俺の収支がトントンに収まる理由の大半だった。

18年やって、これに気づかなかった。気づいてはいたが、止められなかった、と言うのが正確かもしれない。

「買わない判断」が、できなかったのだ。

目の前にレースがある。馬が走る。馬券が買える。それだけで、人間の手は動いてしまう。冷静に「このレースは見送る」と決められる回数は、18年やっても増えなかった。むしろ年々、感情で買う癖は強くなった。

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「期待値」という、もう一つの境界線

ダート王の開発を始めた頃、最初に取り組んだのは「予想精度を上げる」ことだった。当たる馬を見つけるアルゴリズム。回収率を上げる組み合わせ。そっちの方向ばかり考えていた。

でも、3月の赤字を眺めながら、別の景色が見えてきた。

当たっても、儲からない馬券がある。

たとえば人気の本命馬を当てた時。オッズが1.8倍。100円賭けて、180円戻ってくる。差額の80円が利益。当たっても80円、外れれば100円が消える。長期で見れば、人気サイドの馬を買い続けても、回収率はじわじわ下がっていく。よほど勝率を上げない限り、プラスにはならない。

「当たる」と「儲かる」は、別の話だった。

儲かる馬券には、別の条件がいる。期待値だ。賭けた金額に対して、回収できる金額の期待値が1を超えていないと、長期では負ける。当たっても1.8倍にしかならない馬券は、勝率が60%を超えていないと期待値はマイナスのままだ。

この考え方を、ダート王のロジックに組み込むことにした。「当たりそうな馬」を選ぶだけじゃなく、「期待値が見合うオッズの馬券」だけを買う設計に。それ以下のオッズの馬券は、AIが買い推奨を出さない。

境界値を設けた。期待値がこの境界値を超えなければ、買わない。

これが、ダート王の今日の進化だった。

1,604レースが、境界値を決めた

境界値をどこに引くか。これは勘では決められない。バックテストで証明する必要があった。

過去のレース1,604レース分のデータを使って、シミュレーションを回した。境界値を変えながら、どの位置に引けばROI(投資収益率)が最大化されるかを計算する。AIが3つ、それぞれ違うロジックでシミュレーションした結果を突き合わせて、最終的な境界値を決めた。

結果、ROI124.8%。

1,604レースを通して、賭けた金額の124.8%が戻ってくる計算になった。100円賭ければ、平均的に124.8円戻る。長期で続ければ、必ずプラスに収束する。

もちろん、これはあくまでバックテストの数字だ。過去のデータでうまくいったからといって、未来も同じになるとは限らない。マーケットは変わる。馬も変わる。騎手も変わる。だから境界値も、定期的に再計算しないといけない。

それでも、1,604レースの数字は、ある種の証拠だ。「期待値が境界値を超える馬券だけ買えば、長期でプラスになる」という仮説に、データの裏付けがついた。

これを18年前の自分に渡したかった。あの頃、競馬場で最終レースのファンファーレを聞きながら「取り返そう」とつぶやいていた俺に、「このオッズ未満は買うな」と機械が止めてくれる仕組みがあったら、人生が変わっていたかもしれない。

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AIが、AI同士で議論し始めた

もう一つ、大きな変化があった。

ダート王の中で、AIが議論する仕組みを作った。6つのAIが、同じレースに対して別々のロジックで予想を出す。上位3つは深層的な分析、下位3つは表層的な分析。それぞれの票がどう分かれるかで、レースの「読みやすさ」を判定する。

具体例で書く。今日の川崎11レース。6つのAIのうち、本気で予想を投入したのは1つだけだった。でもメタ情報を見ると、6つのAIの票が3対2で割れていた。3票がソイラテという馬に集まり、残り2票が別の馬に分散した。

これは、「上位AIと下位AIで本命が完全分裂」している状態を意味する。

上位AIは深層データから「ソイラテは川崎1500mで全戦連対している」という事実を拾った。1,604レースのバックテストで、同コース全連対馬の期待値が124.8%だったという聖域のデータと完全に一致する。

下位AIは表層データから別の馬を選んだ。近走の人気や勢いを重視すると、ソイラテ以外の馬が浮上する。それも間違いではない。情報のレイヤーが違うだけだ。

俺は、この分裂を「歪み」として読む。市場が見落としている期待値の歪み。表層の人気でソイラテ以外が評価されているなら、ソイラテのオッズは実力以下に低く見積もられている可能性が高い。逆に、相手として軽視されている馬がいるなら、馬連で組み合わせた時に期待値が跳ね上がる。

AIが分裂すること自体が、情報になる。1つのAIに「答え」を出させるよりも、複数のAIに「視点」を出させて、その分裂を読む。これが、6AI合議構造の本当の意味だった。

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動的しきい値が、最後のブレーキになる

境界値を設けて、6AIで議論させて、それでもまだ最後の判断が残る。

レース当日の生オッズだ。

バックテストで境界値を決めても、実際のレースではオッズが動く。本命人気が集中すれば、オッズは下がる。穴馬人気が広がれば、オッズは上がる。境界値を固定したままだと、せっかくの仕組みが機能しない場面が出てくる。

だから、動的しきい値という仕組みも作った。レース直前のオッズに合わせて、買うか買わないかの判断を最後に微調整する。今日の川崎11レースで言えば、AI平均自信度0.71、損益分岐点が4.4倍。ソイラテのオッズが1倍台に集中するなら、馬連での期待値は4.4倍を下回る可能性が高い。その場合は、買わない。

逆に、相手馬の馬連オッズが想定以上に高ければ、損益分岐点を超える。その場合は、買う。

「オッズが確定するまで判断は保留」。これが、最後のブレーキだ。

18年前の俺なら、たぶんこのブレーキを踏めない。レース直前は心拍数が上がっている。冷静に「期待値を満たさないから見送る」なんて判断できる精神状態じゃない。でもAIは違う。淡々と数字を計算して、淡々と「買い推奨を出さない」を返す。

人間ができなかったことを、機械が肩代わりしてくれている。

「逆張り」も、機械化した

もう一つ、面白い動きが起きた。

圧倒的な軸馬が存在する場合、ダート王は「逆張り」を提案するようになった。

普通、本命人気の馬がいる場合は、その馬を軸に馬券を組むのが定石だ。でも、本命人気が集中しすぎると、オッズが下がりすぎて、当たっても旨味がない。期待値が境界値を割り込む。

そういう時、ダート王は「軸は本命のまま、相手を広げる逆張り戦略」を提案する。本命を軸に置きつつ、人気薄の相手を3頭、4頭と広げる。1点の購入金額は減るが、当たった時のリターンは跳ね上がる。期待値で計算すると、こちらの方が長期で勝てる。

これも、人間にはできない判断だ。本命人気の馬を見たら、人間の脳は「これに賭ければ確実」と判断したがる。確実そうに見えるものを、わざわざ広げて買うのは、心理的に難しい。

でもAIは、心理がない。だから期待値の計算結果に従って、淡々と「相手を広げろ」と提案する。

18年前、本命馬の単勝を買い続けて、ジリ貧で負けていた頃の俺に、この仕組みを見せたら、たぶん最初は信じない。「本命を当てたのに、なんで他の馬も買うんだ」と言うだろう。でも長期のデータを見せたら、納得するはずだ。

ダート王は、もう道具じゃない

ここまで進化させて、自分でもびっくりしている。

最初はただの「予想アプリ」を作るつもりだった。当たる馬を見つけて、回収率を上げる。それだけのアプリ。

でも今のダート王は、もう道具じゃない。仕組みだ。

期待値で境界線を引く。6AIで議論させる。動的しきい値で最後の判断をする。逆張りも機械化する。これは、人間の代わりに考えるAIじゃない。人間ができないことを、代わりにやってくれるAIだ。

「買わない判断」を機械化する。これが、ダート王の本当の役割だった。当たる予想を出すことよりも、買うべきでない時に「買わない」と言える仕組みを作ること。18年前の俺が一番欲しかったのは、たぶんこれだった。あの頃、最終レースのファンファーレの前で、「やめておけ」と止めてくれる声が欲しかった。今のダート王は、その声を機械の中に持っている。

5月17日でスプリントは終わる。残り6日。改修されたダート王の数字が、実戦でどう出るかは、これから見ていく。今日の川崎11レースが、最初の検証だ。

ROI124.8%は、過去の数字だ。これからの数字は、まだ誰も知らない。1,604レースのバックテストを、現実が裏切る可能性もある。

でも、仕組みはできた。あとは、走らせるだけだ。

見届けてくれ。

📝 佐藤 兆のNOTE

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